アメリカでは1970年代からこんなアンケートが行われていました。

「オリンピックで金メダルが取れるけれど一年後に死んでしまう薬があったら、あなたはそれを飲みますか」

 

質問は一年後から五年後に死ぬ、とか少しずつ表現が変わっていきましたが、1995年頃まで世界のトップクラスの選手たちに行われたこのアンケートは、半数以上の人が「薬を飲む!」と答えていたそうです。

近年ではスポーツ界でのドーピングに対する認識の高まりよって「薬を飲む」と答える選手の数は激減したそうですが、それでも望む結果をもたらしてくれる魔法の薬の誘惑はとても強いものがあるのではないでしょうか?

もし「五年後に死ぬけどクラリネットがめちゃくちゃ上手くなる薬があるよ」と10代もしくは20代の時に言われたら、私はなんの迷いもなく飲むと答えていたと思います。正直、今のこの年齢でアレクサンダーテクニークを学んだ後であっても衝動的に「その薬欲しい!」と考えている自分がいることも確かです。

 

私たちは夢と希望を持ってスポーツや演奏に一生懸命取り組みます。

でも時に夢の実現に固執して周りのことはおろか自分自身のことでさえも切り捨ててしまう瞬間があります。

 

 

元西武、野球選手の森慎二氏の記事です。

https://sportiva.shueisha.co.jp/clm/baseball/npb/2017/04/23/150_split/

森氏はメジャーのマウンド上で肩を脱臼、その後投手として返り咲くことは叶わなかったそうです。

氏は当時を下記のように振り返っています。

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「あとから自分で分析すると、原因は腰にあったような気がします。傷めていたわけではないのですが、一部が張って、硬くなっていました。腰が張ると、股関節の動きも悪くなります。その負担が肩にきたのではないかと。強いボールを投げようとすると、体に負荷がかかります。それが肩にきたのだろうと考えました」

**********(引用終わり)**********

人間の身体は部分で動くのではなく、頭から足の先まで大きな一つのユニットとして動きを行っています。人間の身体は絶妙なバランスで成り立っています。森氏の見識が医学的にどう考えられるのかは私にはわかりません。しかしながら肩を脱臼したことはあくまで結果であり、もし氏の言う腰の違和感が投球前からあったのであれば、肩が壊れるような投球フォームに至ってしまったのはやはり頭-首-背中-腰から足までの全体のコーディネーションを失ったことが大きな要因になるかと思います。

 

現在はピッチングコーチとして活躍されているそうですが、そのコーチとしての選手との向き合い方がインタビューで語られています。誰でも結果を求める強い欲求があります。金メダルや結果の出せる薬は死ぬとわかってても飲むことを望む気持ちがあります。

その強い欲求は時として厳しいトレーニングに取り組む原動力となることでしょう。でもそれと同時に、自分自身や自分を支えてくれているチーム・コーチ・家族友人のことも考えることで少し視野を広げることが出来ればと思います。

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──現在は古巣のライオンズに戻り、一軍ピッチングコーチをつとめています。どんな思いで選手たちを指導していますか。
「肩を傷めたこと、リハビリを含め、いろいろと経験したことが引き出しになっています。シーズン中、どこも痛いところがないというピッチャーはいないと思います。肩を傷めやすいピッチャーは、肩に負担をかけないフォームで投げるためにどうすればいいのか、なぜ肩を傷めるのかをじっくり話して聞かせています
選手の意見を聞きながら、方向性を探っています。肩やひじを傷めることなく投げ続けることは、本人のためでもあり、チームのためでもあります。そこはアスリートとして、大事な部分です。年齢的にあとがない選手の背中は押します。それぞれの立場にあった指導を心がけています」

**********(引用終わり)*********

 

 

※記事引用 Web Sportiva 2017.04.23「150キロを投げた自分はもういない」。元西武・森慎二が語る大ケガ より引用。