雑巾絞りと腕の使い方:ランナー編

先日の雑巾の絞り方から見る腕の使い方を「ランニング」という視点から生徒さんと取り組んでみました。

◆◇◆腕の降りと手の握り◆◇◆

私はクラリネットを使って練習しますが、ランナーは特に何か特殊な道具を使うことは無いかと思います。でも道具を使わない、ということはすなわちランナー自身の身体そのものがランニングのための道具、ということもできます。
ということは、私にとってクラリネットが刺激(stimulus)であるようにランナーにとってはランナー自身の身体そのものが一つの刺激(stimulus)になりえます。
アレクサンダーテクニークでは刺激に対する反応の癖(リアクションパターン)を認識し、抑制(inhibition)する事を学びますが、道具などの対象物がない分、ランナーは刺激に対する反応の癖(リアクションパターン)の認識が難しくなるのかもしれません。

まず最初に部屋の中で、「ランニングしているように腕を振っていただけますか?」とお願いしました。
生徒さんは軽く手を握り、腕を前後に降り始めました。
しばらくしところで今度は、「手を開き、手のひらを上向きにした状態でランニングのように腕を振っていただけますか?」とお願いしました。
この時点で何か違いがありますか?と尋ねましたが、特に違いを感じなかったとの事。

ここでいったん腕降りを止め、雑巾の絞り方の説明を行いました。

***雑巾の絞り方と骨の動き方***

縦向きのタオルを両手の手のひらに乗せ握り、両手首を内側に回転させる方法は、橈骨と尺骨の自然な交差する動きを利用していることになります。人間の身体の構造に則したとても自然な無理のない腕の動きを行うことで、十分に雑巾に負荷をかけ絞り上げることができるのです。

肘から手首までは、橈骨(とうこつ)と尺骨(しゃっこつ)という日本の骨で構成されています。この二本の骨が平衡状態から交差した状態に動くことによって、手は手のひらや手の甲と自由自在に回転させることができるのです。

橈骨と尺骨は、手のひらが上を向いているときに平行に並びます。
いわゆる逆上がりをするときの鉄棒のつかみ方、これは手のひらを自分に向くようにつかみ、橈骨と尺骨は平行な状態となり、手の甲が上を向くときには橈骨と尺骨は交差します。

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次にいつもの通り、アレクサンダーテクニークの基本であるチェアワークを行い生徒さんの心身のバランスがランニングから少し離れたころ合いを見て、再度、ランニングの腕降り-手のひらを上に向けた腕降りを行ってもらいました。

すると今度は、「確かに、腕や肩回りに違いがあります」とのこと。
なぜ今度は違いに気づくことができたのでしょうか?

楽器奏者であれば、刺激を小さくするためまずは楽器を持たずに手の動かし方を学ぶことで自分がどのような使い方をしているのか考えていきます。しかしながらランナーの場合はランナーの身体自身がランニングの道具ですのでどうしても刺激がダイレクトにリアクションに反映されてしまいます。そのため、「いつものランニング、いつもの腕降り」を強くイメージしそれを再現しているため、いつもと異なる腕の使い方を受け入れることができなかったのでしょう。

では、生徒さんの感じた「違い」は何だったのでしょうか?

多くの指導書で、ランニングの際は軽く手を握る、と言われているかと思います。
しかし現実は、疲れや坂道などの負荷の高い場所、またはペースアップするときなどは無意識にがんばろうという意識が高まり手の握りも強くなってくるかと思います。
この手の握りの緊張が短時間ですぐもどるのであれば構わないのですが、長時間手の握りの緊張とともに過ごすことで習慣となり、部屋の中で腕を振るだけですでに腕が緊張状態となるのです。
手の握りが緊張状態になると腕全体が硬くなり肩の動きも阻害されて行きますが、もう一つ起こりうるパターンとして、手を握りしめることによりどんどん親指側に力がかかり、手の甲が上に向くような握りになるのではないでしょうか?

アレクサンダーテクニークでは、正しいポジション、正しい形を追い求めるのではなく、どんな動きにも対応できる無理のない身体の状態を学びます。
今回ランナーの生徒さんと雑巾の絞り方とそのアイデアからくる腕の使い方を実験して分かったことは、負荷のかかるランニングで長時間手を握りしめて振り続けることで、腕の動きが自分の今までのランニングで構築された筋肉の使い方以外の動きを忘れ、一定のポジションに固まっている可能性があることに気づくことができました。

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