雑巾絞りと腕の使い方:ゴルファー編

先日の雑巾の絞り方から見る腕の使い方を「棒状のものを握る」という視点から生徒さんと取り組んでみました。

◆◇◆棒を握る◆◇◆

私がクラリネットを使って練習するように、ゴルファーであればゴルフクラブを、野球選手であればバットを使って練習します。
ということは、私にとってクラリネットが刺激(stimulus)であるようにスポーツ選手にはその道具が一つの刺激(stimulus)になります。
アレクサンダーテクニークでは刺激に対する反応の癖(リアクションパターン)を認識し、抑制(inhibition)する事を学びます。

私が楽器ケースを前にするだけで身体が楽器ケースに吸い寄せられるように反応するのと同様に、彼はゴルフクラブやバットを見ると、無意識に腕を伸ばし始めます。
気持ちが目の前にある自分の大切な物にくっついてしまうのです。

でも今まさに練習するために使う楽器や道具に気持ちが傾くのは当然じゃない?と思われることでしょう。ですがここで考えたい大切なことは、楽器などに手を伸ばすその行動は意識的であったか、無意識の行動ではなかったか?という点です。

例えばある日のレッスンで楽器演奏時の立ち方を習っていたとします。
足は肩幅に…など色んなアドバイスをいただいて立ち方を変えたとしても、いざ楽器を構えようと無意識に楽器を掴んでしまったら?

…そう、ついさっきまで習っていた立ち方を忘れてしまい、今まで通りの立ち方に戻ってしまうのです!!

ですので、雑巾の絞り方を通じて理解した腕の使い方を楽器などに応用する際には、十分抑制(inhibition)された状態で意識的に楽器などに向かうことが大切なのです。

随分前置きが長くなりましたが、十分抑制された状態で、雑巾の絞り方で学んだように肘から小指に向かうラインを大切に、そのラインを崩さないように彼に棒を握るようお願いしたところ、ついさっきまで易々と握って練習していたのにも関わらず、なかなか握ることができません。

とってもたくましい男性が棒を握れずにいる姿、何だか信じられないと思います。でもこれはふざけているわけではなく、自分が自分の身体をどう使っているのか意識的に考えようとした時に初めて今までがどれほど無意識だったのかという事実に気づいたという事なのだと思います。

抑制を失い、ただ掴むことに集中すると、面白いことに人差し指などの指より先に親指が動き出し、手首が外側に反り折れてしまいます。その時にはもう完全に肘から小指にかけたラインのことは忘れてしまっているのです。

ここでもう一度雑巾に戻ってみたところ、明らかに棒よりも簡単に抑制しつつ意識的に雑巾を握ることができました。
なぜなら彼にとって棒状の物は雑巾よりもクラブやバットに形状が近いため、遥かに重要な物であり刺激が強いものなのです。刺激が強ければ強いほど、私たちは抑制しづらくなり、無意識な反応に飲まれてしまうのでしょう。

◆◇◆棒を構える◆◇◆

ようやく棒を握れるようになったとしても、いざ腕を引き寄せ構えよう!とした瞬間、再び心は棒を構えることに映ってしまい、身体は無意識にいつも練習している時と同じ状態になりせっかくここまで時間をかけて考えた「握り方」を止めてしまいます。

…そう、ついさっきまで習っていた掴み方を忘れてしまい、今まで通りの掴み方に戻ってしまうのです!!

ですのでもう一度自分を抑制し、手のひらを上にした握り方に立ち戻ります。
そして十分抑制しつつ肘から小指のラインを大切に、それと同時に「首を自由に」と自分に問いかけながら雑巾を絞るように、尺骨を軸にし大きく弧を描くように橈骨が回転するように両手首を回転させます。

この雑巾を絞るときのような腕の使い方で棒を握った場合といつものように「早く練習したい!」という気持ちで棒を握った場合、どれだけの違いが生じるのでしょうか?
彼は最初こそぎこちなく何が起こっているのかよくわからなかったものの、何度か繰り返してた後は、少し自分の身体の中が楽だと感じたそうです。

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